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― 人生は一度きり。効率よりも、心が動くことを選ぶ



「成果を増やすには、どの方法が最も効率的か」

限られた時間の中で仕事をする私たちにとって、効率を考えることは大切です。

けれども、効率よく積み上がった成果が、自分の心をまったく動かさないとしたら、それを長く続けることはできるでしょうか。

このことを考えるきっかけになったのは、最近、私の動画チャンネル収録のためにインタビューさせていただいた京都大学皮膚科教授の椛島健治先生が話していたことです。

内容はこちらから動画でご覧いただけます。

 

今や、医学研究の手法は大きく発展し、流行りの空間トランスクリプトーム解析やシングルセル解析など、大量のデータを扱う技術を使えば、そこから見える現象を論文にまとめ、研究成果を積み上げることができます。

しかし、椛島先生は、成果を出しやすいからという理由だけでは面白いと思えない、と話されました。

日頃の診療の中で生まれた疑問を出発点に、自分が知りたいことを追いかける。

英語でいえば curiosity-driven、好奇心から始まる研究でなければ、やる気が湧かないというのです。

私は、その言葉に深く共感しました。


道具が問題なのではなく、そこに自分の問いがあるか

もちろん、データ駆動型の研究や新しい解析技術を否定したいのではありません。それらは、これまで見えなかった現象を明らかにする強力な道具です。その方法に心が躍り、大量のデータから未知のパターンを見つけることを楽しめる人もいます。

大切なのは、流行しているから、論文が出やすいから、上のポジションに近づけそうだからという理由だけで、自分の時間を渡していないかということです。

昇進や社会的評価を目標にすることも悪くありません。ただ、それだけが動機なら、希望する立場を得た瞬間に、次へ進む力を失うリスクがあります。

一方、自分の問いから始まった仕事は、効率が悪く見える時期があっても、何度でもそこへ戻りたくなります。うまくいかないときにも、別の方法を試したくなる。その繰り返しが、長い時間をかけて、他の人には簡単にまねのできない仕事を育てるのだと思います。


上野ファームで見た、『好き』が育つ時間

この夏、私は北海道旭川市の上野ファームを訪れました。花々が風に揺れる庭を歩きながら、ここにも、心が動くことを長く続けた先に生まれた仕事があると感じました。

上野ファームは、もともと代々続く米農家です。1983年に米の個人販売を始め、農場を訪れるお客様に、目で見ても魅力ある場所だと感じてもらいたい。

その思いから、田んぼの畦道にルピナスを植えたことが、庭づくりのきっかけになったと公式サイトに記されていますし、私も実際に上野由紀さんの講演で当時の話をお聞きすることができました。

ここのガーデナーの上野砂由紀さんは、ご両親が農場の周りを花で美しくしようとする姿を見て育ち、イギリスでガーデニングを学びました。帰国後、ご両親と庭づくりを始めます。

家族で少しずつ庭を広げ、公開すると、市内だけでなく北海道外からも人が訪れるようになりました。苗の販売が始まり、古い納屋はカフェへと生まれ変わりました。

興味深いのは、イングリッシュガーデンをそのまま再現するのではなく、北海道の気候や風土に向き合う中で、上野ファームならではの『北海道ガーデン』が育っていったことです。


好きなことを続けるとは、誰かの成功をなぞることではありません。自分がいる場所、自分が持っている材料、人との出会いを受け取りながら、自分にしかつくれないものへ育てていくことなのだと思います。

最初から大きな事業をつくろうとしたのではなく、人を喜ばせたいという思いから花を植え、庭づくりを続けた。その『好き』が、結果として多くの人に受け入れられる場所と仕事に育った。私は上野ファームを歩きながら、そのように受け取りました。


私がいま、心を動かされていること

では、私自身は何に心が動くのだろう。そう考えると、いまは、限られた材料から何かをつくることに喜びを感じています。特に動画編集は、とても楽しい仕事です。

どの場面を残し、どの順番で伝え、どんなイラストやBGM・効果音を添えるか。素材が同じでも、組み合わせによって伝わり方は変わります。考えているうちに時間を忘れることがあります。

成果のために我慢して続けているのではなく、つい続けてしまう。それは、自分の内側から湧く動機を教えてくれる大切なサインです。


依頼を受けることと、自分の時間を守ること

医師には、製薬会社などから講演を依頼される機会があります。知識を社会に還元する意味のある仕事も多く、依頼されること自体を否定する必要はありません。

ただ、条件のよい外部からの依頼の仕事で予定が埋まり、自分が本当に育てたい問いや活動のための時間がなくなるなら、一度立ち止まる必要があると考えます。

外から与えられた仕事は、依頼が途切れれば終わります。

一方、自分の好奇心から育てた仕事、身につけた技術、人との信頼関係は、自分の中に残ります。

人生は一度きりです。すべてを効率で選ぶのではなく、自分の時間を何に渡すのかを、自分で決めたいものです。


心が動くことを選ぶ三つの問い

1.        他人からの評価とは関係なく、つい考えてしまうことは何ですか。

2.        面倒や失敗があっても、また取り組みたくなることは何ですか。

3.        そのための時間をつくるとしたら、何を一つ減らしますか。


答えが、すぐに立派な仕事や事業になる必要はありません。

小さな疑問でも、庭の一輪の花でも、一本の短い動画でもよいのです。

心が動く方向へ時間を重ねると、その積み重ねが、やがて誰かを喜ばせ、自分にしか残せない仕事になると私は考えます。


今日の問い

その仕事は、あなたが本当に残したいものですか。

人生は一度きりです。

今週、心が動くことのために、どんな小さな時間をつくりますか。


臨床40年、教授10年の経験とコーチングの視点から、忙しい医療者が自分の軸や強みを見つめ直し、より良いキャリアを選ぶためのメッセージを週3回お届けしています。

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 現状維持バイアスから1ミリ外へ
現状維持バイアスから1ミリ外へ

同じ年代の、私のよく知るある人が、別の都市にセカンドハウスとして賃貸マンションを借りました。

驚いたのは、セカンドハウスを持ったことではありません。

「別の街にも暮らしの拠点をつくろう」と決めてから、物件探し、契約、必要な物の購入、室内の整備まで、わずか二か月ほどでやり遂げた、その行動の速さでした。


その様子を見ながら、私は気づきました。

私は仕事に関する新しいシステムの導入には比較的すぐに動ける一方で、暮らしを大きく変えることには、思っていた以上に慎重になっていました。


「長男・長女として育ったから」「保守的な家庭だったから」など、なかなか動き出さない理由を探そうと思えば、いくらでも見つかります。

でも、同じ時間を使うなら、できない理由を探し続けることではなく、現状から1ミリ外へ出るために使った方がよいのではないか。そんなことを考えました。


現状維持バイアスは、誰にでもある

人は、今の状態に不満があっても、変化に伴う不確実さや手間を大きく感じると、「とりあえず今のままで」と考えやすくなります。これが現状維持バイアスです。

ただし、これは人の性格を一言で決めるものではありません。住まいを変えることには慎重でも、仕事上の新しい技術には積極的な人がいます。その逆もあります。

大切なのは、「自分はいま、どの領域で現状維持を選びやすくなっているのか」に気づくことです。

また、現状維持そのものが悪いわけでもありません。

特に医療では、新しい技術や仕組みを導入する前に、安全性、正確性、守秘義務への配慮を十分に確認する必要があります。慎重さは、専門職として欠かせない態度です。

けれども、十分に検討したうえで今までの方法を選ぶことと、検討する前から「今までどおりでよい」と退けてしまうことは違います。

後者の背景には、現状維持バイアスがあるのではないでしょうか。


変えないことにも、見えにくいコストがある

現状維持の一番大きな問題は、「変えないことによる損失」が見えにくいことです。

新しい仕組みを導入すれば、覚える手間や初期のトラブルはすぐに目に入ります。

一方、導入しなかったために失った時間や機会は、数字に表れにくいため、見過ごされがちです。

例えば、適切な範囲でAIや自動化を早めに試していれば、定型業務に使う時間を減らし、新しい技術を学んだり、後輩と対話したりする時間をつくれたかもしれません。

外注、テンプレート化、タスクシフトを一つ試すだけでも、忙しさの構造は変わる可能性があります。


私が町内会の役員をしていたとき、自治体の補助金で購入した自治会館のガスコンロについて、設置した証拠写真の提出を求められました。最初は、写真を印刷して町役場へ持参するように言われました。何度かやり取りをした結果、スマートフォンで撮った写真をメールに添付すればよいことになりました。

小さな出来事ですが、「従来の方法を続けること」が、利用する人にも担当する人にも手間を増やしている例だと感じました。

このことと関連があるのかどうかは不明ですが、最近、私の住む町では「書かない窓口」と称して、住民票などの申請手続きのペーパーレス化が始まりました。町民にとっても窓口業務をする方にとっても良い方向に進んでくれて嬉しいです。


リーダーに必要な、新しいものに対する姿勢

新しい技術や製品が広がる過程を説明するイノベーター理論では、新しいものをすぐに採用する人もいれば、ある程度普及してから取り入れる人、最後まで慎重な人もいると考えます。

リーダーが、いつも最初に新しいものに飛びつく必要はありません。必要なのは、新しいものを無条件に拒まず、情報を集め、安全な範囲で小さく試し、結果を見て判断する姿勢です。

新しい仕組みをすでに使っている人とつながり、失敗例も含めて教えてもらうことも、変化のリスクを下げてくれます。


現状維持バイアスから抜け出す三つの問い

1.   変えないことで、半年後に失っているものは何でしょうか。

2.   失敗しても元に戻せる、小さな実験は何でしょうか。

3.   すでに実践している人から、何を教えてもらえますか。


例えばAIなら、まず、守秘義務に触れない一つの定型作業で試す。

業務分担なら、一つの仕事だけ人に頼んでみる。

新しい会議方法なら、一回だけ試行して振り返る。

変化は、大きな決断でなくても始められます。


今日の一歩「できない理由」が浮かんだとき、それを責める必要はありません。ただ、「これは現状維持バイアスかもしれない」と気づき、変えないコストも一緒に見てみましょう。大きく変えなくてよい。現状から一ミリ外へ。


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痛みを認め、意味づけを考え、強みと捉えて行動する
痛みを認め、意味づけを考え、強みと捉えて行動する

もう気にしていないと思っていたことを、誰かのふとした一言で刺激され、思いがけず傷つくことがあります。

年齢、出自、家庭環境、経済状況、婚姻歴、学歴、・・・

自分では「もう達観した」「今さら気にしていない」と思っていたのに、何気ない言葉が胸に刺さる。

そんな経験は、決して珍しいことではありません。


傷ついたときに、まず必要なのは「こんなことで動揺するなんて」と自分を責めることではありません。

そこに痛みがあることを認め、「私はこの部分を、誰かに承認してほしかったのかもしれない」と気づくことです。


「上には上がいる」と知った友人

以前、地方都市で一番良い高校に進学し、自分たちはエリートだと思っていた頃の友人と話したことがあります。

その友人は東京の大学へ進み、そこで初めて「上には上がいる」と知ったそうです。

自分は、いわば小さな山のお山の大将だったのだ、と。


私にも似た経験があります。地方の国立大学医学部を卒業し、一般的に見れば十分に恵まれた道を歩んできたつもりでした。ところが、東京で小学校から大学まで一貫教育を受けた私立大学医学部出身の人たちと知り合い、学生時代から築かれた人脈や、早くから海外へ出る機会を得ていた経験の厚みに触れました。

「かなわないなあ」と、一瞬落ち込みました。しかし、すぐに考え直しました。相手が得てきた機会と、私が歩んできた道は違います。違う二つの人生を、一本の物差しで測って落ち込んでも、そこから何かが生まれるわけではありません。


比較には、二つの落とし穴がある

恵まれている人を見て、「自分には足りない」と落ち込む。反対に、相手の欠点や弱点を探し、自分のほうが上だと安心しようとする。方向は逆でも、どちらも自分の価値を他人との比較で測っている点では同じです。

もちろん、家庭環境や経済状況、教育や留学の機会、人脈の差は現実に存在します。

それを「気持ちの持ちよう」だけでなかったことにする必要はありません。

ただし、機会の差を、そのまま人としての価値の差に変換する必要もないのです。


大切な区別 相手が持っているものと、自分の価値は別


「それがどうした」は、自分を投げ出す言葉ではない

年齢も、出身地も、過去の環境も、すでに起きた事実です。

変えられない事実を材料に、何度も自分を裁き続ける必要はありません。

そんなとき、心の中で「それがどうした」と言ってみる。

これは、他人に啖呵を切るための言葉ではありません。

「それも私の一部です。それでも私は、ここから自分の人生をつくっていきます」と、自分に許可を出すための言葉です。

自己卑下が癖になると、周囲はそのたびに励ましたり否定したりする役割を求められます。

それ以上に残念なのは、「私なんか」と言うたびに、自分自身が可能性の扉を閉めてしまうことです。

「私なんか」ではなく、「私はここから何ができるだろう」と問い直してみましょう。


ネガティブな背景を、資源に言い換える

たとえば、次のように見方を変えることができます。

·     地方で育った → 限られた環境の中で工夫する力が育った。

·     留学経験がない → 国内の臨床や患者さんの現実を深く知っている。今から必要な学びを選べる。

·     育児や介護で遠回りした → 人の事情を想像し、優先順位をつける力が培われた。

·     年齢を重ねた → 経験を統合し、若い頃には見えなかった全体像を捉えられる。

無理に何もかもを美談にする必要はありません。つらかったことは、つらかったことでよいのです。

ただ、その経験によって得た視点や力まで見落とすことのないようにしたいです。


他人の評価軸から自分軸に戻る、三つのステップ

1.   痛みを認める:「私は今、何に傷ついたのだろう」と言葉にする。

2.   事実と意味づけを分ける:「相手にはこの経験がある」は事実。「だから私は劣っている」は意味づけ。

3.   強みと行動に戻る:「この経験から得た力は何か」「今日できる一歩は何か」と問い直す。


ありのままの自分を承認することから、前進は始まる

自己肯定感や自己効力感は、誰かに「あなたはすごい」と言ってもらうだけでは安定しません。

自分の背景も、遠回りも、足りなかった機会も含めて、「これが私の出発点だった」と承認する。

そのうえで、自分の強みを生かして実績を一つずつ積み重ねることが、揺らがない自信につながります。

誰かの一言で古い傷がいたんたら、まずは自分は自分自身の一番の味方ということを思い出します。


今週の問い あなたが「一般的にはネガティブ」と思っている自分の背景を、そこから得た力や視点という言葉で言い換えるとしたら、どのように表現できますか。


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