この道でよかったのか 不安になるとき

他人の道がまぶしく見えたら 選んだ道を正解にする行動に戻る
定年後に選んだ 私なりの働き方
私は二年半前に大学を定年退職しました。
同じような立場の医師の多くが、病院の勤務医になったり、開業したりしています。
私はそのどちらでもなく、コーチングで起業し、非常勤で病理診断をしながら若手医師を教える道を選びました。
さらに、YouTubeで医学教育や医療者のキャリアに関する動画を配信しています。
臨床、研究、教育、管理職を経験してきた自分の強みを別の形で生かせる、私に合った働き方だと感じています。
大学を離れた後も、誰かの成長や学びに関われることがうれしく、この道を選んだことに納得していました。
同世代の論文を知って 心がざわついた
ところが先日、私と似た経歴を持ち、少し後に大学を定年退職した先生が、総合病院で皮膚科勤務医として働きながら、英語の総説論文を執筆していることを知りました。
定年後も学術活動を続けていると分かった瞬間、私は少し動揺しました。
なぜ胸がざわついたのでしょう。
私は現在の活動をやめて、その先生と同じ道へ行きたいわけではありません。
それでも心が揺れたのは、私の中に「定年後も学術論文を書くことが、医学者としての正道である」という価値観が残っていたからかもしれないと思いました。
長年所属した世界の物差しは、退職しただけでは消えません。
他人の実績を見たときのざわつきが、その存在を教えてくれました。
日の当たる場所は 人によって違う
ここで、昔の出来事を思い出しました。
私が大学の講師だった頃、同年代の知人が他大学の主任教授になりました。
その先生は私に、「先生より先に日の当たる場所へ出てしまいました」と申し訳なさそうに言いました。
私はその言葉を不思議に感じました。
その頃の自分が日陰を歩いているとは思っていなかったからです。
主任教授になることを羨ましいとも感じませんでした。
管理職になるより、医学研究を続けることの方が、その時点の私には楽しかったのです。
役職を得ることが日の当たる場所だと考える人もいれば、研究へ集中できる場所、患者さんに向き合える場所、人を育てられる場所、自由に新しい企画を始められる場所をそう考える人もいます。
他人の正道が、自分の正道とは限りません。
同じ道を歩く人が見えない不安
今回の私が以前と違ったのは、現在の道を歩んでいる同世代のモデルが身近にいないことです。
コーチング、病理診断、若手教育、動画配信を組み合わせ、医学教育系の発信者として活動する人は、少なくとも私の周囲には見当たりません。
目印がなく、比較できる人もいない道を歩くとき、「これでよいのだろうか」と不安になるのは自然です。
しかし、前例が少ないことと、価値がないことは同じではありません。
新しい道では、他人の物差しを借りるのではなく、自分で評価基準をつくらなければならないのだと思います。
選んだ道を正解にする
以前、大学を辞めてクリニック勤務を選んだ後輩の送別会で、私は「選んだ道を正解にするように、まず努力してみてください」と伝えました。今は、その言葉を自分自身に返したいと思います。
どの選択にも、始める前から保証された正解はありません。
隣の道を見ては落ち着かず、今いる場所で十分に取り組まなければ、その道が自分に合うかどうかを判断する材料も得られません。
大切なのは、選んだ道で一定期間、力を尽くしてみることです。
動画を届ける相手を明確にする。
内容と伝え方を改善する。
病理診断や若手教育との相乗効果をつくる。
自分の経験が誰かの役に立った証拠を集める。
行動によって、選んだ道を少しずつ正解へ近づけます。
正解にすることと 固執することは違う
ただし、「選んだ道を正解にする」とは、何があっても同じ方法を続けることではありません。
不安を感じるたびに方向を変えるのでも、一度決めたからと意地になるのでもなく、評価する時期を決めておくことが大切です。
まず半年、あるいは一年は腰を据えて取り組む。
そして評価日には、成果、充実感、心身と生活への負担、将来性を冷静に確認します。
続けるのか、方法を変えるのか、別の活動と組み合わせるのか、手放すのかを判断します。
十分に歩いた後の方向転換は、失敗ではありません。
経験を根拠にした選び直しです。
今週考えたい三つの問い
1. 最近、誰の歩みを見て心がざわつきましたか。その人の何がまぶしく見えましたか。
2. 今の道を半年間、正解に近づけるために、どの行動に力を注ぎますか。
3. 次の評価日はいつですか。その日に、成果、充実感、負担、将来性をどのように確かめますか。
正しい道を外から探し続けるだけでは、足元がおろそかになります。
今いる場所で一歩ずつ道をつくり、決めた日に立ち止まって見直す。
その繰り返しが、自分らしいキャリアを育てるのだと思います。
あなたは、選んだ道を正解に近づけるために、今日どんな一歩を踏み出しますか。
臨床40年、教授10年の経験とコーチングの視点から、忙しい医療者が自分の軸と強みを見つめ直し、より良いキャリアを選ぶためのメッセージを週3回お届けしています。



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