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気づいた人から、社会は変わり始める

12 分前
読了時間: 7分
大きな制度改革から身近な改善まで、気づいた人の主体性が社会を少しずつ変えます
大きな制度改革から身近な改善まで、気づいた人の主体性が社会を少しずつ変えます

― 愚痴を『自分にできること』へ変える主体性


皆さんは、身の回りで『どうして、いつまでもこのやり方なのだろう』『誰かが変えてくれないだろうか』と思っていることはありませんか。

職場の非効率な仕組み、女性医師が働きにくい勤務体制、必要な情報が届かない組織、地域の不便な連絡方法。

気になることがあっても、自分が声を上げるのは出過ぎたことではないかと考え、黙ってしまうことがあります。


日本では、謙虚であることが美徳とされてきました。相手を尊重し、自分の考えだけを押し通さない姿勢は、とても大切です。けれども、謙虚さと、必要な行動まで控えることは違います。


不満は、変えたいものに気づいているサイン

何かに不満を感じるとき、そこには『本当はこうあってほしい』という願いが隠れています。


連絡がもっと簡単になってほしい。

育児をしながらでも能力を発揮できる職場であってほしい。

若手が所属や地域に関係なく学べるようになってほしい。


不満そのものが悪いわけではありません。違和感に気づく感受性があるからこそ、改善すべき点が見えます。

ただし、誰かのせいだと考え続け、愚痴だけを繰り返していると、自分は状況を変えられないという無力感が強くなってしまいます。

そこで役立つのが、『では、自分にできることは何だろう』という問いです。

すべてを一人で解決する必要はありません。最初の小さな働きかけを選ぶことが、主体性の始まりです。


若手を置き去りにしない場をつくった人

先週のブログでは、若手皮膚科医のコミュニティ『平成デルマ会』を立ち上げた須藤上治先生をご紹介しました。

須藤先生は、所属や地域によって学びの機会に差があり、若手同士をつなぐ場が必要だと気づきました。

そして、必要な講師を探し、面識のない相手にも丁寧に依頼し、実際に学びの場をつくりました。

『誰かが若手のために場をつくってくれればよいのに』で終わらせず、自分にできることを始めたのです。


主体性とは、役職を持つことではありません。

必要なものに気づき、自分から最初の一歩を踏み出すことです。

その行動が人をつなぎ、周囲を動かしたとき、リーダーシップになります。


女性医師の困難を、個人の問題で終わらせなかった

2026年8月に私が主催したオンライン勉強会では、札幌医科大学泌尿器科の西田幸代先生から、女性医師のキャリアを支える取り組みについてお話しいただきました。

育児と仕事の両立が難しいとき、『本人の努力が足りない』『夫が協力してくれない』『勤務先に理解がない』と、個人の問題や愚痴として片づけられがちです。

しかし西田先生は、女性医師が働きにくい背景には、社会や組織の構造上の問題があるのではないかと考えました。


そこで調査研究を行い、子どものいる医師の育児負担を調べました。

女性医師では本人が主に育児を担い、男性医師ではパートナーが担う場合が圧倒的に多いことが示されました。

同じ『子どものいる医師』でも、仕事に使える時間やエネルギーの前提が大きく異なっていたのです。


西田先生は、問題を明らかにするだけで終わりませんでした。

多様なロールモデルを示し、学会へ働きかけ、女性が意思決定や学術活動の場に参加しやすくなる具体的な仕組みづくりを進めました。

女性座長の候補者を推薦しやすくするリストの作成など、『座長者候補が分からない』という側の障壁も下げました。

その積み重ねによって、女性医師の中でも『自分もリーダーシップを担ってよい』と考える人が増えていきました。

不都合を個人のせいにせず、調べ、可視化し、仕組みへ働きかける。

これは主体性が社会を変えた例です。


『気づいた人が責任者』と考えてみる

私が主催した上記のオンライン勉強会では、昨年1月には北海道月形町の元町議会議員、宮下裕美子さんから体験談を伺いました。

宮下さんは、町議会の活動を住民へ伝える報告書がないことに気づきました。

誰かが始めてくれるのを待つこともできたでしょう。

しかし宮下さんは、『気づいた人が責任者』という考え方で、自ら議員活動報告書の発行を始めました。


この言葉は、気づいた人がすべてを背負うという意味ではないと思います。

気づいた自分が、まず問題を言葉にし、周囲に相談し、人を巻き込む起点になるということです。


LINEグループも、小さな社会変革

私自身にも、とても身近な例があります。

私の町内会では、行事の打ち合わせや訃報の連絡を、電話やFAXで行うことが慣例になっていました。

一件ずつ連絡するのは手間がかかり、伝達にも時間がかかります。

そこで私は町内の方々へ声をかけ、LINEグループをつくりました。

すると連絡がとてもスムーズになり、必要な情報を皆で共有しやすくなりました。


学会の制度を変えることに比べれば、小さな出来事に見えるかもしれません。

しかし、社会とは遠くにある大きなものだけではありません。

町内会も、職場も、家庭も、私たちが属する小さな社会です。

その中の不便を一つ減らすことも、立派な社会変革です。

このような経験をすると、『自分にも周囲を少しよくすることができる』という感覚が生まれます。

それが自己効力感です。


愚痴が続く人には、まず十分に聴く

では、周囲に不満や愚痴を繰り返している人がいたら、すぐに『あなたも主体的に動きなさい』と言えばよいのでしょうか。私は、そうではないと思います。

主体的に動きなさい、と言われて動いたとしたら、そこですでに、主体性が失われています。

先日YouTubeでインタビューした、糖尿病内科医で長年、医療者向けにコーチングを実施してきた松本一成先生は、まずその人の愚痴を十分に傾聴することが大切だと話してくださいました。


気持ちを受け止めてもらえないまま正論を言われても、人はなかなか前を向けません。

十分に話してもらったあとで、部下の立場、同僚の立場、患者の立場、病院経営者の立場など、複数の他者の視点から同じ状況がどう見えるか考えてもらいます。

すると、『相手にも事情があるかもしれない』『このまま愚痴だけを言っていても変わらない』『自分にできることもあるかもしれない』という気づきが生まれます。


主体性は、外から叱って与えるものではありません。

安心して話せる関係と、視点を広げる問いによって、本人の内側から引き出していくものです。


『やってみよう』が幸福感を高める

幸福学を研究する前野隆司先生は、幸せを支える因子の一つとして『やってみよう因子』を挙げています。

自分なりの目標を持ち、主体的に関わり、実際にやってみることは、自己実現や成長の感覚につながります。

もちろん、行動すれば必ず思いどおりの結果になるわけではありません。

それでも、自分で考えて一歩を選んだ経験は、『自分は状況に働きかけられる』という感覚を育てます。

小さな成功が重なると、次の一歩も踏み出しやすくなります。

主体性を持つことは、責任や仕事を増やすだけではありません。

自分が社会の受け身の一員ではなく、よりよい方向へ働きかけられる一員だと感じることでもあります。

その感覚が、幸福感にもつながるのだと思います。


主体性を引き出す三つの問い

あなたが今、身の回りで『このままでは困る』と感じていることは何ですか。

誰かが変えてくれるのを待たずに、あなたができる最初の小さな一歩は何ですか。

その一歩を踏み出したとき、あなたは周囲でどのような役割を担う人になりますか。


大きな改革を始める必要はありません。

困っている人に話を聞く。

事実を調べる。

仲間を一人見つける。

改善案を一つ伝える。

LINEグループを提案する。


そんな小さな行動から始められます。

社会とは、職場、学会、地域、家庭など、私たちが日々関わっている場所です。

そこで気づいた不都合を、自分にできる行動へ変える。

その瞬間から、私たちは社会をつくる側になります。


今日の問い

あなたは今週、どの不都合を、どんな小さな一歩へ変えますか。


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